このWEBサイトの研究哲学の項を書き終えてから,そう言えば,と思い出して読み返した2017年のHBRの記事。上下で前編・後編の建て付けになっています。私の研究哲学を理解していただくのにとても良い議論なので,関心を持たれた方はぜひ読んでいただきたいです。なるほど,麻里が言いたいことはこういうことね,ということを理解していただけるかと思います(お二人共あまりに立派で高名な研究者なので並列には並べないで見ていただきたいですが)。
楠木先生は論文業績こそ量はないものの経営論(定義は記事参照)の領域において輝かしい業績を残されている素晴らしい研究者だと思います。しかしながら,私はどちらかと言えば琴坂先生に立場が近いかと思います。経営については,自然科学のような「法則」がなかなか成立しにくいという前提については同意しつつも,まだ「両者の架け橋となることを完全には諦めていない」というスタンスです。琴坂先生がその後どのようなスタンスを取られているか私は存じ上げないのですが,少なくとも2017年時点の琴坂先生に完全に同意します。一方で楠木先生の主張も理解できます。私が見る限り,両者は対立するものではなく,リソース配分の問題だと思うからです。楠木先生は経営論に100%振り分け,琴坂先生は経営学50%-経営論50%(麻里推定)に振り分けている(経営学の定義は記事参照)。どちらが社会にとって貢献が大きいか,という問題もありますが,私は現時点では研究者個々人の判断(好き嫌い,姿勢)で良いのではないかと思っています。
2017年時点からアカデミック(学術)の世界も随分変わりました。他の経営学領域は分かりませんが,少なくとも日本のマーケティングの世界では,かなり実務に開かれたアカデミック・コニュニティの運営が模索されていると感じています。例えば,日本マーケティング学会は,2025年6月6日現在で会員が3,006名とマーケティングにおいてはかなり大規模な部類の学会だと思いますが,うち45%は実務家の方々です。「研究者と実務家による探求と創発」をビジョンに掲げて,2012年に発足し,今年で13年目を迎えています。カンファレンスを訪れるとオーラルセッションのフロアでもポスターセッションのフロアでも,はたまた懇親会でも,研究者と実務家が混ざり合って対等に議論を交わしています。個人的には,これが現時点での健全な学会のひとつの形かなと思います。
また,研究者と実務家が交錯する場所として「ビジネススクール」も挙げられるでしょう。私もそのひとりですが,実務家が初めてアカデミック(学術)の世界に半歩足を踏み入れる良い機会になっていると感じます。特に私はアカデミックな理論や研究方法を重んじるビジネススクール(東京都立大学経営学研究科経営学プログラム(MBA))に通いましたので,最初はアカデミックな思考や様式が理解できずに戸惑いましたが,修了までの2年間で(あるいはしっかり理解するまでに11年間くらいかかったかもしれません)その意味や有用性を考えるきっかけになりました。
そして,私は今,実務家ではなく,研究者としてアカデミアの世界に立っています。まだだいぶ慣れませんが(苦笑),指導教員の教えや姿勢に学んで,経営学については学術論文や学会発表,研究書の出版(いずれ…)で,経営論についてはこのサイトや各種セミナー・講演(いずれ…),あるいはビジネス書の出版(これもまたいずれ…)という形で両輪でまわしていきたいなと思っているところです。
ちなみに,私が書いた研究哲学は,上記の2本の記事を念頭に置いて書かれてはいないことを最後に申し添えておきたいと思います。本当に,書き終わった後で,そう言えば誰か同じようなことを仰っていたようなと思いたち,楠木先生の顔が思い浮かんだのでGoogleで検索したらこの記事が出てきて,「あ,そうそう,これこれ」となった(本当は楠木先生が何かの学会誌に寄稿された別の原稿を探していた)のでした。独立した思考で考えたことが,高名な方々の思考と合致していそうな時はテンション上がりますね。なんか(勝手にですが)答え合わせをして丸をつけてもらった気分です(笑)
あ,あと,私は研究哲学をご一読いただけば分かるように,完全に応用理論の研究者ですが,基礎理論の研究者は尊敬しています。(経営学の場合,多くは心理学や社会学、行動経済学とかでしょうか)こうした人たちは理論をつくることが仕事ですから,実務への還元はそれほど意識しなくても良いのかもしれない,と思います。翻訳して実践に活かすのは私の役目。分業で良い気がします。
ということで,まだまだ駆け出しの未熟者ではありますが,今後にどうかご期待いただけましたら幸いです。